◇ 大相撲秋場所 初日 2002/09/08 (日)
貴乃花○ 寄り切り ●高見盛
1勝0敗 0勝1敗
大相撲九月場所が東京の両国国技館で始まった。昨年五月場所で右膝にけがをした貴乃花が、長期休場を経てようやく出場したのが、一番のニュースだろうか。
貴乃花の一ファンとして、今場所の取り組みについて簡単にメモすることにした。
初日は、ロボコップこと高見盛を寄り切って、貴乃花が勝った。貴乃花よりも高見盛の方がやや上がり気味のような気がした。
貴乃花の右膝のけがが直っているかどうか、体調がどのていど回復しているかどうかは、今後の取り組みを見てみないとわからないが、貴乃花の出場はやはりうれしいものだ。
今場所の貴乃花については、8勝7敗もしくは9勝6敗程度と、私は予想している。私は貴乃花を応援してはいるが、7場所も休場した貴乃花があまり勝つようだと、他の関取の力がなかなか追いつかないことになってしまい、それも少々困る。むずかしいところだ。
そうはいっても、貴乃花が勝つと気分がいい。
この調子で、頑張れ、貴乃花!
◇ 大相撲秋場所2日目 2002/09/09 (月)
貴乃花● 渡し込み ○旭天鵬
1勝1敗 2勝0敗
貴乃花の相撲勘がまだ戻っていないかもしれない。おたおたしているうちに負けてしまった感じがする。
しかし、完敗ではないから、あせる必要はない。マイペース、マイペース、というところか。
◇ 大相撲秋場所3日目 2002/09/10 (火)
貴乃花○ 上手投げ ●霜鳥
2勝1敗 0勝3敗
霜鳥は貴乃花と相撲のタイプがそれほどちがわないから、比較的取りやすいかもしれない。連敗せずに勝ちが先行。よかった。
◇ 大相撲秋場所4日目 2002/09/11 (水)
貴乃花○ 寄り切り ●雅山
3勝1敗 2勝2敗
貴乃花よりも雅山の弱さが気になった。気持ちが前へ出てこない。後ろ向きになっている。
雅山がもう一度大関へのカムバックをめざすには、精神力の鍛錬が必要のような気がする。
◇ 大相撲秋場所5日目 2002/09/12 (木)
貴乃花● 肩透かし ○琴龍
3勝2敗 1勝4敗
貴乃花の足がついていかず、左足がすべってしまった。
ただし、倒れる瞬間に左肘をがっちりとつき、胴体を支えてガードしたのは、すごいと思った。これなら大丈夫、いけそうだ。
◇ 大相撲秋場所6日目 2002/09/13 (金)
貴乃花○ 上手投げ ●土佐ノ海
4勝2敗 3勝3敗
土佐ノ海に左から上手投げ、気持ちがよかった。これでまた連敗せずにすみ、勝ちが二つ先行。
貴乃花が徐々にペースをつかみかけた気がする。
土佐ノ海は相撲の型が安定していない。自分の型をはやく見つけてほしいと思う。
◇ 大相撲秋場所7日目 2002/09/14 (土)
貴乃花○ 上手出し投げ ●栃乃洋
5勝2敗 0勝7敗
栃乃洋が前頭筆頭になり、だいぶ力をつけてきたと思ったら、今場所は調子がよくない。きょうももう少し力を発揮できたはずなのに、貴乃花にやられてしまった。これで7連敗。
貴乃花が勝つと、誰かが負ける。
勝負というのは、きびしいものだ。
◇ 大相撲秋場所 中日 2002/09/15 (日)
貴乃花○ 寄り切り ●若の里
6勝2敗 5勝3敗
きょうは中日(なかび)。これで一区切りというところ。
若の里は貴乃花との取り組み後のインタビューで、貴乃花の復調を肌身で感じたというような受け応えをしていた。
万全とはいえないまでも、若の里に勝って、貴乃花もかなり自信を取り戻しているかもしれない。先が楽しみだ。
◇ 大相撲秋場所9日目 2002/09/16 (月)
貴乃花○ 押し出し ●闘牙
7勝2敗 2勝7敗
闘牙の突っ張りをしなやかに受け止めつつ、貴乃花が自分のペースで取りきった感じがする。
貴乃花の相撲は、全盛期に比べるとやや鋭さに欠けるが、相手の顔色を見て、出方を窺いながら、粘っこい相撲を取っていた。
闘牙はなかなかおもしろいキャラクターをもっているけれど、今場所はあまり元気がなく、足の動きも少しにぶい感じがした。
新大関の朝青龍は力持ちの魁皇に敗れて8勝1敗となり、全勝力士がいなくなった。
1敗が武蔵丸、千代大海、朝青龍の3力士、それに2敗が続くが、そのなかに貴乃花も入っている。
どうやら、後半の取り組みがおもしろくなりそうだ。
◇ 大相撲秋場所10日目 2002/09/17 (火)
貴乃花○ 寄り切り ●隆乃若
8勝2敗 6勝4敗
貴乃花と隆乃若が、まるでぶつかり稽古でもやっているように、土俵を縦横に動き回り、見ていて楽しかった。土俵上の力士は取っていて大変だと思うが、こういう躍動感のある取り組みが毎日何番もあると、相撲がいっそうおもしろくなるにちがいない。
貴乃花が落ち着いて休みなく攻めるのを、隆乃若が突っ張ったりしながらどうにか対抗したが、結局最後は押し切られた。
これで貴乃花は勝ち越し。徐々に調子を上げてきている。どこまで優勝争いに加われるか、興味が増してきた。
きょうの最初の大関同士の対戦、千代大海と朝青龍の取り組みは、朝青龍が押し出して勝った。千代大海は、横綱への足掛かりとなる2場所連続優勝に黄信号がともりかけた感じだ。千代大海のふんばりを期待しよう。
土俵の上で力士たちが火花を散らしている間に、専用機で北朝鮮の平壌に飛んだ小泉首相は、金正日総書記と面会し、史上初の日朝首脳会談が開催された。日本人拉致に関する衝撃的な事実も明らかにされて、歴史的な会談となった。
会談の終わりに両首脳が日朝平壌宣言に署名したが、明日は日本じゅう、この話で持ちきりになるだろう。
めまぐるしい一日だったが、大相撲はいよいよ終盤戦に突入。どの力士が踏みとどまり、優勝をめざして勝ち残るか、目が離せなくなった。
◇ 大相撲秋場所11日目 2002/09/18 (水)
貴乃花○ 上手投げ ●朝青龍
9勝2敗 9勝2敗
朝青龍はずいぶん気合が入っていた。きのうの貴乃花 対 隆乃若戦と同様に、貴乃花と朝青龍は最初から激しくぶつかり合い、見応えのある取り組みとなった。
朝青龍は突っ張りを中心に、手を変え品を変え貴乃花に挑んだが、貴乃花にうまく立ち回られ埒があかない。四つに組んだ後、貴乃花の左膝に外掛けをかけようとしたが決まらず、逆に貴乃花に体を躱され、右からの上手投げで仕留められた。
朝青龍はよほど悔しかったのだろう。花道を退場するときに館内にとどろく雄叫びを上げていた。
きのう朝青龍に敗れた千代大海は、きょうは武双山にはたき込みで勝って、優勝圏内に生き残った。武双山は8勝を目前に、2連敗で足踏み状態。
武蔵丸は隆乃若をなんなく押し出して、ただ一人1敗を堅持。いつものポーカーフェースだが、調子は良さそうだ。
地元の琴光喜は今場所は復調のきざしが見え、2敗を守って優勝戦線に名を連ねている。これから最後のふんばりを期待しよう。
スポーツはいろいろあるが、大相撲もやはり興趣が尽きない。
◇ 大相撲秋場所12日目 2002/09/19 (木)
貴乃花○ 寄り切り ●武双山
10勝2敗 7勝5敗
昨年夏場所14日目(平成13年5月26日)、貴乃花は武双山に巻き落としで負けたが、そのとき貴乃花は右ひざを負傷した。翌千秋楽は武蔵丸との対戦。本割で武蔵丸が勝った後、優勝決定戦で貴乃花が勝ち優勝した。しかし、その右ひざのけががもとでその後7場所にわたり全休した。
そのような事情から、貴乃花 対 武双山戦は因縁の一番である。
きょうは貴乃花の出足がまさり、最初から武双山は押され気味。貴乃花が回しを強くひきつけて、徐々に土俵際に追い詰め、体よく武双山を寄り切った。
今場所の最初の頃と比べると、貴乃花の両回しのひきつけが数段強くなった。そのせいか、武双山はほとんど身動きできなかった。まさに横綱相撲という感じだ。あと3日、千代大海、魁皇、武蔵丸との対戦が残っている。
場所前に行われた横綱審議委員会のけいこ総見などを通じて伝えられた貴乃花に対する不安は、いまやどこかに吹き飛んで、最後まで優勝戦線に絡みそうだ。
琴光喜が千代大海に敗れたのは残念だった。千代大海は朝青龍に負けた後、相撲の取り口に本来の鋭さを取り戻してきたようだ。
◇ 大相撲秋場所13日目 2002/09/20 (金)
貴乃花○ 引き落とし ●千代大海
11勝2敗 10勝3敗
千代大海が体調万全とみたのか、貴乃花が立ち合いと同時に左に変わった。きのうまでの貴乃花の取り口からは予想できない立ち合い時の変化だった。いわゆる注文相撲だ。
突っ込んだ千代大海は、貴乃花という目標を一瞬見失ったものの、土俵から飛び出すことなく土俵際で踏みとどまり、やおら向きを変えると、もう一度貴乃花にぶつかって行った。
このあたりの千代大海のUターン、および貴乃花への再突進は、なかなか見応えがあった。
しかし反撃もそこまで。
そのあと貴乃花が後退りしながら応戦し、左へ体を変えて引くと、千代大海が前へつんのめった。すかさず貴乃花は千代大海の後ろ回しを左手で掴み、さらに押さえ込んでとどめを刺した。貴乃花のしてやったりの顔つきが印象的だった。
倒れ込んだとき、千代大海は土俵上で泳いでいるような感じで、なかなかユーモラスに見えた。これで千代大海は3敗となり、横綱昇進に赤信号が点灯したけれど、残り2番、悔いのない戦いをしてほしい。
次の取り組みで魁皇が武蔵丸を外掛けに破ったので、1敗力士がなくなり、2敗が武蔵丸、貴乃花、魁皇の3人となった。
明日は貴乃花と魁皇が対戦する。魁皇が今場所は調子がいいので、おもしろい一番になりそうだ。
朝青龍 対 若の里戦は、若の里が地力を発揮して、朝青龍を寄り切りで破り、勝ち越した。新大関の朝青龍は、相撲が少し雑になってきたような気がする。
きのう貴乃花に敗れた琴光喜は、きょうは武双山を突き落としで負かした。琴光喜が勝ったのはうれしいが、武双山は勝ち越しを目前に足踏み状態、だんだん心配になってきた。
◇ 大相撲秋場所14日目 2002/09/21 (土)
貴乃花○ 上手投げ ●魁皇
12勝2敗 11勝3敗
貴乃花と魁皇の立ち合いの駆け引きがおもしろかった。一度目は貴乃花がやや焦ったのか、早く立ち上がって仕切り直し。二度目の仕切りは両力士の睨み合いがしばらく続いたが、頃合いを見て、もそもそと立ち上がった。
貴乃花の出足を、魁皇が受け止める形で取り組みが始まった。突き、喉輪、投げを互いに応酬しながら、両力士が縦横に動き回る。貴乃花が休みなく攻め寄るので、魁皇も負けずに応戦した。
十日目の貴乃花 対 隆乃若戦と比べると、あまり派手さはなかったが、土俵全体が戦いの場となり、見応えのある力相撲となった。
結局、貴乃花が左上手を制しつづけ、魁皇は右上手をとれず右下手に甘んじた。魁皇がやや半身になり、一息ついた。
間髪をいれず、貴乃花が左上手を引き締めて、魁皇を少し左へ揺さぶり、その反動を利用して、左からの上手投げを見事に決めた。
これで貴乃花は9連勝。きめ出しで千代大海を下した武蔵丸と同じ12勝2敗。あすは両横綱の楽日決戦となった。
ところで、きのう千代大海を引き落としで倒す瞬間の、土俵上の貴乃花の写真が今日の朝刊にのっていたが、ひじょうに険しい顔つきをしていた。
貴乃花がインタビューに答えず、無言を通しているのも気がかりだ。べらべらしゃべる必要はないが、沈黙はストレスになることがある。適度に発散して、ストレスをためないよう工夫した方がいいのだが。
武双山は若の里を突き落としで下して、ようやく勝ち越し。何となくほっとした。
朝青龍は琴光喜に下手投げで敗れて4連敗。なかなか思い通りに勝てないようだ。琴光喜にとっては先場所の雪辱なったというところ。琴光喜の来場所の活躍が楽しみだ。
◇ 大相撲秋場所 千秋楽 2002/09/22 (日)
貴乃花● 寄り切り ○武蔵丸(幕内優勝)
12勝3敗 13勝2敗
横綱2人と大関4人の三役揃い踏みで、横綱決戦に向かって両国国技館の館内が徐々に沸騰しそうな盛り上がりを見せた。
三役揃い踏みにつづいて武双山と朝青龍の一戦。朝青龍が左の外掛けで武双山を下した。11日目に貴乃花と戦ったとき、朝青龍は右の外掛けをしかけて失敗したから、今回は左の外掛けにこだわったのかもしれない。きょうの朝青龍は慌てずに、慎重に相撲をとっていた。
次は、千代大海と魁皇。魁皇が千代大海の出足を食い止めて、押し出しで破った。きのう貴乃花に苦杯を喫した魁皇だが、きょうは元気相撲で勝った。
魁皇はこういう力強い相撲が取れるのだから、自力は十分あるはずだ。しかし調子が一定せず、大関キープが精一杯になっている。好調子を維持することを心がけて、もっと上位すなわち横綱をめざしてほしい。
千代大海は貴乃花に敗れたのが尾を引いたのか、3連敗した。来場所に向けて出直しというところか。
結びの一番は、相星の武蔵丸と貴乃花。貴乃花が力一杯おっつけたが、武蔵丸動じることなくやり返してぐいぐいと前に出、最後は右差しで貴乃花の左かいなを返して、土俵の外へ寄り切った。
これで武蔵丸の優勝。表彰式の途中で武蔵丸のインタビューがあったが、これまでで一番うれしい、というような話をしていた。再起した貴乃花と戦って勝ったことで、武蔵丸も気持ちがすっきりしたことだろう。
貴乃花は敗れたものの、精一杯、すがすがしく戦っていたように思えた。取り組み後のインタビューにも応えていたから、少しは荷が軽くなったのだろう。
横綱は勝つのが宿命だとしばしばいわれるが、負けたことを悔やんでばかりいても仕方がない。貴乃花は15日間の取り組みを戦い抜くことによって、相撲勘を取り戻したようなので、来場所はさらに体調を整えて出場することを心から願っている。
貴乃花の再起なるか? ということで書き始めた秋場所の大相撲観戦メモも、貴乃花に対する場所前の疑念が吹き飛ばされて、いよいよ終わりに近づいた。
あとしばらく貴乃花と武蔵丸の時代が続きそうだが、それに続く横綱がはやく出現することを期待している。
◇ 大相撲秋場所観戦記あとがき 2002/09/25 (水)
大相撲秋場所が武蔵丸の優勝で終わり、貴乃花をめぐる騒ぎも一段落ついた。と思ったら、翌9月23日開かれた大相撲の横綱審議委員会で、委員長のナベツネこと渡辺恒雄さんが、貴乃花を「カリスマ的存在」として絶賛していた。
「カリスマ」ということばを耳にして、何となくちがうんじゃない? という気がした。それで大相撲観戦メモのあとがきを書くことにした。
場所前9月2日に両国国技館で行われた秋場所前のけいこ総見では、貴乃花がしこを踏んだだけで土俵に上がらなかったので、渡辺恒雄さんは失望をあらわにしていた。そのけいこ総見から3週間で、渡辺恒雄さんの貴乃花に対する評価は激変した。
貴乃花の再生・復活は率直にうれしいが、貴乃花に対する評価の激変には、正直いって私自身戸惑っている。横綱審議委員会の考えと、私みたいな相撲ファンの気持ちとの間に、どこかずれがあるのかもしれない。
一般の会社であれば、トップの評価や方針が3週間のうちに激変したとしたら、社員は途轍もなく面食らうだろう。
もともと貴乃花が7場所も休場できたのは、特例中の特例。ふつうの横綱ならとうに引退しているはずだが、引退しなかったところに貴乃花の芯の強さがあるといえそうだ。
1993年1月に、大関昇進を決めた貴乃花が宮沢りえさんとの婚約を解消して、芸能ニュースのトップを飾ったことがあった。あれから十年近く経ったが、そのあいだ河野景子さんとの結婚、引退した兄・若乃花との微妙な関係、右膝半月板損傷に伴う休場、両親の離婚など、貴乃花のまわりには実にいろいろな出来事があった。
それらを乗り越えて貴乃花は土俵に復帰した。横綱審議委員会の評価はそれとして、おそらく貴乃花は、土俵上に立つこと、土俵上で戦い決着をつけることが横綱の務めと考えたにちがいない。
来場所は優勝した武蔵丸と貴乃花を中心とした展開になりそうだが、この調子で来場所もわれわれ相撲ファンを楽しませてほしいと思う。
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