志摩にて

堀場康一


冷気が顔面を小突く
元日の朝まだき
うつろな目をぱちぱちさせて
パールロードを鳥羽から東へ
海沿いにドライブ
石鏡(いじか)でハイウエーを下り
狭い道をゆらゆら走る
迷い込んだところは波打ち際の小高い工事現場
すでに日は昇り
立ちのぼる雲のはざまから海面を
光の帯で幾重にも照らし出す
八百万の神が屋形船に乗りふいに現れそうな
壮麗さと剽軽さが同居する
恰好の舞台装置
潮風が吹きなぐり
写真機をかまえる両手もふるえぎみ
一息ついてシャッターを押す
冬の海が凜とほえる
繰り言は通用しない
黙然と風声を聞くのみ
さて見るものは見た
またいつか来よう
こんどは日の出に遅れないように


Photo of the Sunrise at Ijika 石鏡にて(クリックして下さい)




 詩集『記憶のサラダボール』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996