志摩にて
堀場康一
冷気が顔面を小突く
元日の朝まだき
うつろな目をぱちぱちさせて
パールロードを鳥羽から東へ
海沿いにドライブ
石鏡(いじか)でハイウエーを下り
狭い道をゆらゆら走る
迷い込んだところは波打ち際の小高い工事現場
すでに日は昇り
立ちのぼる雲のはざまから海面を
光の帯で幾重にも照らし出す
八百万の神が屋形船に乗りふいに現れそうな
壮麗さと剽軽さが同居する
恰好の舞台装置
潮風が吹きなぐり
写真機をかまえる両手もふるえぎみ
一息ついてシャッターを押す
冬の海が凜とほえる
繰り言は通用しない
黙然と風声を聞くのみ
さて見るものは見た
またいつか来よう
こんどは日の出に遅れないように
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