詩人の旅立ち
堀場康一
田村隆一さんが冥界に旅立って十一日後
巨匠クロサワの訃報が世界を飛び交った
マスコミは黒澤明監督のニュースでもちきりだったが
ぼくには田村隆一さんのことが心に引っ掛かっていた
詩人の死が映画監督の死に劣っているのではない
詩人の死より映画監督の死の方が商品価値にまさる
というべきなのだろうか
ある詩人は
最後の戦後派詩人を失ったと語ったが
ぼくには
最後の二十世紀詩人がライムライトから消えた
ような気がした
アルフレッド・プルーフロック然と
レインコート一つ肩にかけ
四千の日と夜をかばんに詰めて
荒地から忽然とあらわれた
垂直的詩人
しらふと酩酊を行ったり来たりした
用意周到な仕事師は
たとえハルマゲドンを目前にしても
アイガー北壁のように動ぜず
垂直に空を仰いで
金色のウィスキーを飲み干すだろう
世紀末を照射する 時空を超えた先達
田村隆一さんに
ありがとうの花束を捧げよう
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