ストリートダンス

堀場康一


ぼくの歩行がときおり歩道で
イレギュラーバウンドするのは
白茶けた建物が寒風にくしゃみするからか
制服の少女が傍らを自転車で走り抜けるからか

記憶のサラダボールから
はらはらとこぼれおちる思い出を
心の垣根に繋ぎとめておくには
いくばくかのためらいと根気がいるように
ひさしく焦がれていたひとと
往来でひょっくり出交したとしても
とっさに浮かぶのは
気の抜けたラムネのような挨拶ばかり

足音が遠ざかる空寒い感覚には
とうに慣れているはずなのに
瞼から奇妙なわびしさが
ふいに頭をもたげたりして
いったいどうしたというのかい

いたずら好きの子供が目をしろくろさせて
砂糖と塩をかわるがわる舐めるみたいに
アニメの主人公がショーウインドーの向うから
入れ替わり立ち替わり愛敬をふりまき
ひしめきあい もつれあい まったく
ストリートダンスを踊るのが精一杯だなんて

そんなセピア色の課外授業で始まる
うっすら雪化粧した町のそぞろ歩きは
けっして心おだやかなものではないが
ぼくの魂は交差点の点滅信号に相槌を打ち
冬の日差しにしずけく微笑んでいる


付記

 さる1月8日から9日にかけて、全国で大雪が降りました。私の住んでいる名古屋でも3年ぶりに雪が積もり、積雪11cmでした。
 雪がやんだあと、雲間から日が差すと、町がほんのり輝きはじめました。
1999/01/16



 詩集『記憶のサラダボール』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1999