ラクダのぶるうす

堀場康一



ぼくの頭は蜃気楼
ジリジリジリと目覚しがはじけ
のそのそもそもそ寝ぼけまなこ
カーテン越しに朝日が差して
きょうも一日張り切らなくちゃ

ぼくの頭はガラス細工
ちょっぴり澄ました顔をして
オフィスの窓際にたたずみ
誰かに話しかけられると
無造作に口をひらいた

ぼくの頭はイエスタデー
昼下がりの公園を散歩していたら
仲のよい二人連れにめぐりあい
ふと悲しみがこみ上げて
ぼくの胸はざわめく

ぼくの頭はひからびて
砂漠に浮かぶラクダさん
この空の下にぼくがいる
都会のオアシスをさがし求め
来る日も来る日もさまよう

ぼくの頭はベートーベン
草花の咲く田園を
無邪気に駆け巡っていたら
運命の女神が優しく声をかけ
いっしょに喜びの歌を口ずさんだ

ぼくの頭は能天気
都会の喧騒から遠く離れて
無頓着なひとり言
ときには雑踏が恋しくて
ブロードウェーを歩きたい気分

ぼくの頭は張子人形
あしたの予定をムニャムニャと
うつろな瞳を閉じていく
ぼくのこころが眠るころ
ぼくのからだはひっそり眠る



付記

 この詩は同人誌「地平線」3号(1973年7月発行)に掲載してもらった詩「あたしのぶるうす」をもとに、全体を加筆修正し、題名も「ラクダのぶるうす」に変更しました。
 なお詩の18行目は、石嶺聡子さんの歌「私がいる」(尾崎亜美作詞・作曲)のなかの一節「私がいる この空の下に」をもとにしています。( 2004.9.8付日記 を参照下さい。)
2005/07/07


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