道
堀場康一
いろんな道がある
みんな歩いてみればいい
いろんな道がある
みんな辿ってみればいい
ひとつの道でなかったものが
もうひとつの道で見つかるかもしれない
ひとつの道で出あったものが
もうひとつの道で出くわさないかもしれない
たとえば言葉を知らずあてもなく世界を見つめていたときも
仲間と横町を走り回っていたときも
たとえば昼下りの教室でぼんやり先生の話を聞いていたときも
書物に傍線をほどこして自分の位置を確かめようとしたときも
たとえば思想を宝物のように大切にしていたときも
コップの中で泡のように夢が砕けていったときも
たとえば一方通行の愛のむなしさを知ったときも
愛することの重みを思い知らされたときも
たとえば出口をふさぎ洞穴に閉じこもっていたときも
不器用な自分がたえがたく思えたときも
たしかにひとつの道を歩いていた
(いまぼくはどこを歩いているのだろう?)
いろんな道がある
無理をしなくてもいい
いろんな道がある
からだを大事にしたほうがいい
からだがこわれたって遊ぶんだ
と子供たちは言う
からだをこわしたりしたら思うように飛び回れないよ
とぼくは口を挟む
道端にころがるまるい石 詩のかけら
踏み切りにたたずむ手持ちぶさたな大人たち
きょろきょろと顔を動かす子供たち
大人に大人の世界があるように子供には子供の世界がある
いろんな道を歩いたあとで
なにかが身についているかもしれない
いろんな道を歩いたあとも
いままでどおりかもしれない
いままでどおりだってしかたないさ
とぼくは自分に言い聞かせる
いままでどおりだったら懲らしめてやる
ともう一人のぼくが口を挟む
(いったい誰を懲らしめようというのか?)
女たちは中日ドラゴンズ優勝セールの話をしながら
夕暮れの商店街を行ったり来たりしている
男たちは定年と再雇用を酒の肴にしながら
夕闇の赤ちょうちんを出たり入ったりしている
あしたぼくの歩く道は
夜空に花火の上がる公園通り
蜿蜒とつづく都会の環状道路
不可視の可視のあなたへ通じる道
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