川の気持ち
─ 名古屋 新堀川にて ─

堀場康一


昼過ぎ新堀川にかかる橋を西に渡り
夕方同じ橋を東に渡った
行きは川の水がずいぶんと低かったが
帰りは満々と水を湛えていた
大潮のせいか水位が大きく変化している
川を渡るたびにそっと水面を覗き込む
日によってちがう水の色や肌触り
そのちがいに納得してさりげなく通り過ぎる
きょうはなめらかな灰色まじりの深緑を呈していた

新堀川にかかるいくつもの橋
若宮大通南側の堀留下水処理場を起点に
川はほぼ南に下り
舞鶴橋 鶉橋 記念橋 宇津木橋 富士見橋
大井橋 向田橋 東雲橋 法螺貝橋 立石橋
熱田新橋 高蔵橋 新堀田橋 牛巻橋 神宮東橋
日の出橋 新開橋 文斉橋 新熱田橋 熱田橋とつづく
そこから西に蛇行し
浮島橋 新内田橋 内田橋を経て
常夜燈の見守る七里の渡に達し
そこで名古屋を縦断する堀川と一つになる

橋のたもとに饅頭屋のあった日の出橋あたりから
川沿いを南にたどって内田橋近くまで
子供のころ仲間とよく遊びに行った
距離にして二キロ足らずの行程だが
ぼくにとっては一大冒険だった
当時はあちらこちらに筏が組んであり
ぽんぽん蒸気が繁く往来した
途中に広い貯木場があり
筏の上におそるおそる乗って飛びはねたものだ
太くて大きい材木は子供が乗ってもびくともしなかった
その貯木場もいまはない
昭和三十四年九月二十六日来襲した伊勢湾台風のとき
流木などの被害が出て危険なことがあった
そのためかそれからしばらくして閉鎖されたようだ
ぽんぽん蒸気も今はめったに通らない

ぼくが物心ついたとき新堀川はすでにそこにあった
その後橋や堤防が改修されたりしたが
川はいつもたんたんと流れている
ひょっとしてぼくたち人間は
川の歴史に相乗りしているのかもしれない
そういう人間のふるまいに
川は何を思っているのだろう

川沿いの道路を颯爽と車で走り抜けると
ひとりでに心が落ち着いてくる
ぼくは川に呼びかけてみる
すると川はやさしくうなずいた

(2001/02/25)



 詩集『記憶のサラダボール』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 2001