しあわせのかたち

堀場康一


牛巻商店街のこの辺りに
子どものころ映画館があった
曙館といって
よく家族で見に来たものだ
アラカンや裕ちゃんはじめ
時のスターが入れ替わり立ち替わり
銀幕の上で競い合い
満員の観客をわくわくさせてくれた

その映画館もとうの昔に取り壊され
いま軒を連ねるのは
餅屋 キッチン 持ち帰り寿司
居酒屋 チャイナハウス それに
ファッションクリーニング
町並みはすっかり変わったが
映画の思い出はいまも
ぼくの心に息づいている

傍らを姉弟らしい子供二人が
色違いの自転車に乗って
追いかけながら
振り向きながら
小路を颯爽と駆け抜ける

二人が運んできた風は
しあわせのかたちをしていて
新築校舎の屋上でしばし羽根を休め
ペダルのリズムに合わせて
やがて夏空にはばたく




追記:
牛巻(うしまき)商店街は名古屋市内の商店街です。

(2001/08/01, 2005/07/29)




 詩集『記憶のサラダボール』目次

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