道化師

堀場康一



群青の空が町をおおう
夕暮れどき
ぼくは心をふくらませて
赤煉瓦倉庫の通りを
西へと向かう
日はすでに沈み
地平線付近だけ
ほんのり赤らんでいる

並木道
車の行進
街路灯
ヘッドライト
ネオンサイン
おしゃべりする歩行者
寡黙な自転車
見慣れた風景が押し寄せて
戸惑いと安らぎが
ぼくの心をかきまわす

いつも新しい何かが始まる
明日のために
愛と希望と夢を込めて
ぼくは準備しよう
身も心もすこやかにして
ぼくは旅立とう

やがて空は暗転
舞台が切り替わり
ショッピングセンターの入口が
ライムライトに照らされる
パントマイムを演じる
ぼくは道化師


付記

 名古屋の雁道(がんみち)交差点から、通りを西へ行くと、線路に突き当たります。線路手前の南側、中京倉庫本社内に、赤煉瓦倉庫(旧熱田兵器廠)があります。
 この通りを歩いているときに、ちょうど空が群青色と化し、あたかも映画の一シーンを見るようでした。
2004/10/12


詩集 水平線 目次

Copyright (c) Koichi Horiba, 2004