夜明けのエチュード
堀場康一
花の名前を知らなくても
花のよさはわかるはず
そう言い放ってぼくは
花の名前を覚えないまま
ここまで来てしまった
怠惰なのか
物覚えがわるいのか
誰のせいでもない
自分のせいにちがいない
たしかにそうだけれど
わびしさがつきまとう
風が心を吹き抜けるのは
よくある光景だが
こんなに強い風が吹き抜けたのは
はじめてかもしれない
それが何のしるしか
よくわからないけれど
とても大切な気がする
動揺してはいられない
先のことは定かでないが
わるく考えるより
いいことが起こると信じたい
運が良いと思いたい
どの方向に進むにせよ
自分の運命をしっかり受け止めよう
もやいを解け!
船を出せ!
舵を取れ!
エンジン全開!
ぼくは自分に言い聞かせる
どこにも逃げ道はない
ぼくの居場所は
このざらついた現実
家々の灯り
ビルのネオン
更け行く秋の夜
夜が明けたら
朝日にかがやく町に繰り出し
気持ち新たに走り出そう
ぼくの心を吹き抜けた
あの強い風を肩に感じながら |
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