そしていまも

堀場康一



ぼくは人生を考える
ひたすら大袈裟にかんがえる
片恋であろうと
ラブストーリーのようにかんがえる
見知らぬ町ではぐれたら
トラベルミステリーのようにかんがえる
こてんぱんに殴られたら
アクションドラマのようにかんがえる
くたくたになっても
漬物石になっても
明日を向いて
人生をかんがえる

一体どうなってるんだろう
ぼくの人生
きみの人生
ひとりひとりの
それぞれの
かけがえのないものなのに
風船のように落ち着かず
生クリームのようにつかみどころがない
問い詰めることも
問い詰められることもなく
慌てず騒がず
追わず追われず
もちつもたれつ
行ったり来たり
笑っていいとも
泣いていいとも
きのうの風は暴れん坊
きょうの風は通せん坊
あしたの風は風来坊

いつだったか
そんな人生談義をしていたのは
そしていまも
そんな人生談義をしているのは

ぼくの人生
きみの人生
ひとりひとりの
それぞれの
かけがえのないものなのに
大切な大切なものなのに
行方も知らずあめあられ
行方も知らずはてもなし


付記

 詩の最終行は「古今和歌集」の凡河内躬恒 (おうしこうちのみつね) の歌、

  わが恋はゆくへもしらずはてもなし逢ふを限りとおもふばかりぞ (古今611)

に拠ります。
2004/12/15,2006/10/29,2008/06/28


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