朝の空気
堀場康一
目をつむるとあなたがいて
目をあけるとあなたはいない
そこから始まるぼくの一日
こんな暮らしが
どれほど続いたことか
慣れたといえば聞こえはいいが
そーゆーわけにもいかなくて
外は薄暗く
空気は乾いて
雨が降りそうな気配はなく
コンビニのある大通りに出ると
まるでショーケースを照明するように
車のヘッドライトが行き来して
立ち止まらず
無造作に通り過ぎ
ことばを忘れ
沈黙して
信号が根気よく変わりつづけるように
変わらないものはなく
ぼくも変わりつづけている有様
通りなれた道をランニングしながら
ぼくの足は見知らぬ方角を
めざしているのかもしれず
ことばを発する前に走って
ことばを伝える前に走って
もっとやさしく
もっとたくましく
なりたいと思う
たどりついた川縁の船着場は
薄明に包まれ
おだやかに水面が広がり
大声であなたを呼びたい気持ちを残して
ふたたび走り出し
ぼくは朝の空気に溶けていく |
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