エゴイズム
堀場康一
棺桶に閉じ込められてしまってからでは
手遅れだというので
いまのうちに香典をもらっておこうと考えた
それで友達に会うたびに
香典をくれ香典をくれ
とお願いしてみたが
だれもかれもが
香典なんて知らないよ
という素振りで
とても相手にしてくれそうもない
その上
お前まだ生きていたのか
というような目付きで
ぼくをじろじろと眺めるので
ぼくのからだは死にきれないで
生きているようなのであるから
仕方がないではないか
と文句を言ってやりたいけれど
そんなこと言っても
香典をくれる見込みはなさそうなので
すごすご引き下がるよりほかに
手だてはないのだろうか
そんな具合にあれこれ心を悩ましているうちに
本気で香典をくれと言っているのか
冗談で香典をくれと言っているのか
わけがわからなくなってしまった
わけがわからなくなって馬鹿らしくなったのか
絶対に棺桶に入ってやらないよと
ぼくは妙な利己心にとりつかれている |
付記
同人誌「地平線」2号(1973年4月発行)に投稿、掲載してもらった詩「エゴイズム」を見直して、加筆修正したものです。 |
2005/02/20 |
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