なんくるないさ恋歌
堀場康一
なんくるないさの言葉に合わせ
すごろくの振り出しに戻り
恋愛レースにふたたび参加しよう
人生八十年を通り越し
九十歳百歳に手が届く時代
ぼくは五十をすぎて
人生半分
このままひとりで生きて行くのはものさびしい
心ときめく話がなかったわけではない
ケータイのなかった頃
ダイヤルを回す手がふるえたり
何度も手紙を書き直したり
手紙を携えてポストの前を行き来したり
酔って公園で眠り込み鞄を置き忘れたり
終電車で終点まで乗り越したり
そんなこともあったけれど
ドラマチックではなかった
恋に破れて人生に挫折し
あらしのよるにずぶ濡れで歩いた記憶は
あまりないし
ドラマ気取りで
東尋坊の断崖に立ち尽くしたり
青木ヶ原の樹海をあてどなくさまようことも
なかった
そんなわけだから
駅前のうどん屋でざるうどんを注文し
うどんを食べ終われば
竹ざるで掬い取ることができるくらいの
大粒の涙を流しただけですんだ
と言っておこう
一つ一つの出来事が尾を引くことはあっても
過ぎたことは心の引き出しにしまい
未来に希望を託す
さてそうはいうものの
はたして恋愛レースに勝ち目はあるか
年若い連中に若さでは及ばないし
年代を問わず対抗馬がいっぱい
職もお金もままならず 知恵もほどほど
しかしここで退却したら
親知らず 世間知らず 万事休す あめあられ
かくして九回裏の逆転勝ちを狙い
心勇んでランニング大会の提案をしよう
─────────────────────
ランニング大会 ─恋愛レース序章─
毎朝六時から五日間連続で十キロ走を行い
五十キロ走の合計タイムで勝敗を決める。
─────────────────────
ぼくに勝算があるわけではない
この国や世界のあちらこちらに
タフで足の速い男たちはかぎりなく多い
素人ランナーのぼくは比べ物にならない
とはいえ尻込みしてもはじまらない
早朝のランニング大会を勝ち抜くために
日々のトレーニングに励むべし
恋愛レースは体力勝負
夢見るひまはありません
恋愛レースは健康勝負
二日酔いでは勝てません
恋愛レースは心の真実
うそ偽りは相手に見破られる
現実はリアル だけれど
なんくるないさ 恋愛レース
なんくるないさ 人生レース
「Runner」の曲に合わせ
走る 走る 夜明けの町
意気揚々と駆けて行け
|