秋風のくりごと

堀場康一



あなたはいつも振り向いてばかりいる
いまいるところが出発点だということを
あなたは認めようとしない
あなたはいつも周囲を見回してばかりいる
あなた自身がすべての出発点だということを
あなたは曖昧にしている
あなたのまわりはいつも空気が漂うだけ
だれも寄りつかないし寄りつけそうもない
いくら年を重ねても事情はたいして変わらない
いくら待ってもたぶん何事も起こらない
大切な人はふいにはやってこない
サイコロは自分で投げるもの
きっかけは自分でつくるもの
大切な人は自分で迎えに行くもの
あなたはいつも反省や復習ばかりしている
あなたの行動や体験よりも
あなたの反省や復習の方がずっとかさだかい
反省や復習であなたは押しつぶされそう
それでは困る
あなたも困る
わたしも困る
みんなが困る
だから
「書を捨てよ、町へ出よう」
わたしに言えることはそれだけ
あなたに伝えたいことはそれだけ
わたしは秋風に吹かれて
いつものように休まずに歩き続けるつもり
さてあなたはこれからどうしますか
どこへ行きますか
足手纏いにならないうちに
はやく腰を上げて
秋風に吹かれてみませんか

──そう言われてみれば
ぼくは反論しようがないが
音を上げるわけにはいかない
見上げれば秋空がどこまでも広がる
ぼくの行く先はあの雲の下
さりげなく手招きする町
生きているのがたしかなら
朝早く起き出して
夜明けの交差点で大きくステップを踏もう
それだけの人生
そこからの人生

付記

 「書を捨てよ、町へ出よう」は寺山修司さんの著書名から。
2005/10/21, 2006/06/05


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