彫刻の森

堀場康一



いつだったか箱根を旅行したときのこと
その日は強羅のホテルで一泊
翌朝強羅駅から箱根登山鉄道に乗って
つぎの彫刻の森駅で降りた
めざす彫刻の森美術館はすぐ近くにあった
野外彫刻を見て回り
ヘンリー・ムーアの「横たわる像」の前で
横になって休んでいると
くしゃみが出て のどが痛くなった
かばんからのど飴を取り出して
なめようとしたら
なんと のど飴にパンカビが生えていた
ぼくはおどろいて
パンカビ パンカビ パンカビ
パンカビ パンカベ パンカベ
パンカベ パンカベ パンカベ パンカベ
パンカベ パンカベ パンカベ パンカベ
と叫んだ
いつのまにかパンカビがパンカベになっていた
パンカベと十回言ってみて
のど飴をもう一度見ると
不思議なことにパンカビは消えていた
ぼくは何事もなかったかのように
のど飴を口に入れた
のどの奥まですーっとして
気分がよくなった
ぼくはやおら立ち上がり
パンカビのことは忘れて
ふたたび彫刻の森を歩き回った

付記

 つぎも合わせて参照ください。
詩「彫刻の森」(2005/10/31日記)
箱根旅行(2日目)(2006/04/11日記)
2006/10/07


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