そっとたたえたい

堀場康一



風を吹かせたいと思ったのはいつだったか
遠い昔の出来事のような気がする
ぼくは風に吹かれるままきょうも
夜明けの大通りを駆けて行く
ふらつかないよう
もたつかないよう
気を引き締めてステップを踏むと
ぼくの心はいつしか
大空をさまよいはじめる
そんなとき
好きな人をそっとたたえたい
と思うことがある
なぜだかわからないが
そういう気持ちになることがある
たたえるは
称えるであったり
讃えるであったり
ほめそやすわけではないが
たたえたい
と思うことがある
好きな人をたたえることで
なにか見返りがあるわけではない
たたえることで
ぼくの心がひととき安らかになる
それだけのことかもしれないが
そんなささやかなよろこびが
ひとつひとつ重なって
ぼくの日常がつくられていく

2006/01/11


詩集 水平線 目次

Copyright (c) Koichi Horiba, 2006