大食い大会

堀場康一



いまから五十八年前
雪国での出来事だった
ぼくが生まれる数年前のことだから
本当のところはよくわからないが
村中が雪に包まれたとある村で
大食い大会が開催された
参加者が食べたのはなま物や料理した物でなく
なんと凍結みかんだった
雪に埋もれて熟して凍結したみかんが
参加者の目の前にずらりと並べられた
制限時間は二時間
凍りついたみかんに歯が立たない人もいるだろうからと
審査員が親心を出したわけではない
午後に村役場の用事があるから
午前中に終わるよう二時間にしたまでのことだ
順位は凍結みかんをいくつ食べたかで決めることにした

さて凍結みかん大食い大会には
老若男女
おなかに自信のある人が
地元の村だけでなく
全国から押し寄せた
おなかを競い合ったのは総勢五十八名
朝九時の定時ニュースとともに
大食い大会はスタートし
凍りついたみかんとの壮絶な戦いが始まった
参加者のなかには歯が欠けた人も何人かいたようだ
おおかたの人は歯が立たずあきらめたが
ひとりだけ超人的な男がいて
がつがつとみかんを食い続けた
結局二時間で五十八個食べて優勝した

その後大食い大会はどうなったかというと
凍結みかんを二時間食べ続けたのは
その男ひとりだけだったので
観客や周囲の評判はよくなかった
審査員もばつがわるそうだった
そのせいかこの大食い大会のことは
いつのまにか忘れ去られた

最近 五十八年ぶりに凍結みかん大食い大会を開こう
という話が持ち上がったらしい
本当のところはよくわからないが
こんどは凍結みかんを食べるロボットが
来賓として登場するかもしれない


付記

 2006年1月30日の日記も合わせてご覧下さい。
2006/01/31, 2009/11/19

 2006/05/10 題名を「大食い大会の話」から「凍結みかん」に変更。
 2007/06/09 題名を「凍結みかん」から「大食い大会の話」に戻しました。
 2010/05/29 題名を「大食い大会の話」から「大食い大会」に変更。




詩集 スタートライン 目次

Copyright (c) Koichi Horiba, 2006