遠くから
堀場康一
遠くから聞こえる声に
ぼくは耳をすます
聞きたい声を追いかけて
ぼくは雲の上をさすらう
いつからか
聞きたい声が聞き分けられるようになった
心が安らぐからかもしれない
気が晴れるからかもしれない
聞きたくない声を避けているわけではないが
聞きたくない声を聞きつづけていると
バックドロップをくらったように
ぼくの心がひっくりかえる
わがままといわれれば返す言葉がないが
ほかに思い浮かばない
聞きたい声に耳を傾けながら
ぼくも声を出す
ブラックホールにぼくの声が吸い込まれないように
発声練習をしてみる
あいうえお
いうえおあ
うえおあい
えおあいう
おあいうえ
遠くから聞こえる声とぼくの声が
月光を浴びて共鳴したら
なにかのはじまり
きっとうれしいにちがいない
そう思いながら
遠くから聞こえる声に
今宵ぼくは耳を傾ける |