堀場康一


ぼくは仮説を放擲する
風が擦り抜けるところ躊躇があり
気球が遠ざかるところ期待があり
信号が明滅するところ転機があり
自動車が発進するところ空白があり
アーケードが活気づくところ規律がある
ぼくは希望に合図する
橋桁が崩れるところ試練があり
電車が止まるところ猶予があり
ネオンが灯るところ再会があり
テレビが消えるところ静寂があり
夢がはじけるところ展開がある

嗚呼ぼくら
セピア色の湾岸スタジオで
原始メニューを調理する
アンモナイトの末裔
どろんこの犀たち
恐竜スープをはらはらと飲み干し
スカイタワーに映るアスファルト宇宙を
からからと笑い飛ばせば
ひこうき雲が決然と
黄昏に溶けていく
さて歴史の転回を体験するのは
ジェットコースターでいかが

青空とクレーンが交錯する
ビルの屋上
神秘の生成
メーンストリートをつらぬく
犀たちの行進
背伸びする人びと
引力と声援
確認と再開

やがてぼくらが十字路を渡り終える頃
広場でもう一つの芝居が始まる
それは張り詰めた空間を構成し
町中に奇妙な歓声を創出する
知恵のシーソーゲーム
カーテンコールの駆引き
大地が寝息を立てるまで
巡礼たちは足を休めることがない



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996