不眠都市

堀場康一


風の仕種に合せ
プラットホームで情念を投擲するとき
飛行機雲は白熱のスタジアムで旋回し
自動車の鼓動に合せ
マンホールで思考が跳躍するとき
デザイナーが石畳や街路樹と企てる
空間のメークアップ

スクランブル交差点でにぎやかに纏振る道化と
校舎の屋上でふうわり宙返りする妖精
公園の噴水で一浴びし
超電導とエイズウイルス
四阿で将棋指すあいだ
あどけない林檎たちはリカレントな服で闊歩する
ガラス張りの遊歩道

熱くなく冷たくないように
インテリジェントビルの袂で
モラトリアム時代を演出する
コミュニケーションの輪

ミステリーと電話とシステム手帳かかえ
熱帯夜くぐり抜けると
しなやかに絡み合う湾岸道路
不眠都市

そこで白球を祀るものはモザイクの果実を頬張り
そこで白球を葬るものはひからびたダムで舟を漕ぐ

均衡と統計の美学で
無造作につくられる街並み
アコースティックな余韻
タクシーを呼び止めるには
ラプソディー気配の舞台装置に
朝靄に紛れてシャドーボクシングする
嗄れた風見鶏たち



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996