風
堀場康一
南風が駆け抜けた後
人は凍てついた背中を持ち上げた
抽斗からひからびた心を取り出し
星空で念入りに洗濯
牛乳で染め朝日で乾かし白布で繕うと
たった今長い旅から帰ったばかりの
渡り鳥のようにさえずり始めた
透明な沈黙があたりを包み
何も起こらなかった月日が現われては消えた
人は黒い通勤かばんに心を仕舞い
ラジオを消してまじないを唱えた
ハトガマメクテパ
ガラスの扉を開けると
アスファルトの蒸気が大空に流れ
夢の隙間を軽やかに行き来した
目覚めの時
都市の叫びに合わせて
人はアスファルトの海に溶けてゆく
地平線のあたりに
象たちが手招くのを目撃しながら
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