コロッセオ

堀場康一


ひらひらと木洩れ日のようにただよい
からからと登り窯のようにくぐり抜け
うろたえることも
涙を見せることも
いつのまにか太古の驚きでなくなったのは
いつの頃か
忘れかけたときめきが天井画に映り
一つの記憶がもう一つの記憶を呼び醒ます
早送り
連鎖反応
遠い国からやって来た見物客が
お誂えの桟敷席で声援する
コロッセオ
誰も気づかぬうちに
飛行船は次の空中桟橋へ旅立つ
都会の午睡
ナビゲーション
途轍もない事件が路上で生起したら
たぶん身構えてしまうだろう
足を踏ん張るだろう
そして顛末を捜し求めて
高層建築にハイジャンプするかもしれない
平行線を辿りながら
プラットフォームを行き来することで
歯車がひとつひとつ噛み合う
孤立と連帯のシーソーゲーム
サウンドシャワー
待合室
サッカーボールをキックして
スタンドを駆け抜けると
地平線はまだ明るい



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996