パスワーク
堀場康一
あしたから風が吹いてきて
スカイタワーの上空で渦を巻き
スケートボードで坂を下り
コンビニエンスストアの前で立ち止まって
ぼくらの季節の到来をそっと耳元で告げるとき
神は久屋大通公園の芝生ですやすや昼寝をしている
縄文・弥生の時代から神の昼寝は有名だが
咎めだてるものは今もって誰もいない
畏れ多いというのではない
躊躇しているのでもない
神の昼寝にぼくらはしばし我を放擲し
マイク片手に昼下がりの弁舌をふるう
たとえば次のようなキャッチフレーズで
みなさん
がら空きの始発電車に乗り込み
十五ラウンド闘ったボクサーのように
汗と気取りを吐き出し
オフィスの控室から颯爽と登場し
曇天に欠伸しないで
百面相で蹴散らし
次の仕事に身を構えずに
あっけらかんとステップを踏み
言葉を食み 身体を練り
心に移ろいゆくブラインドの陰翳を
画布にあきらけく刻みつけて
海原にささやかに流し
町角で砂の宝石を見つけたなら
大空に抛り投げ
たそがれに紛れようとせずに
街路灯とあどけなく対話してみませんか
すると神はパノラマ的光景に目を覚まし
軽くストレッチ体操をして次の一手に頭を捻り
ぼくらは地下街のとあるパン屋の前で行列を作る
いつものようにいつもの時間に
やがて日が落ちると
神は久屋大通公園から次の逗留地へ飄々と旅立つ
誰にも行く先を告げずに
誰にも悟られないように
点滅する信号の彼方では
自動車のヘッドライトがジョギングを繰り返し
光と闇のオブジェに包まれて
人々は手探りで往来を歩行する
果てしなき夜更けの歩行シーンに
透明なメディアの洪水が押し寄せようとも
小気味好いパスワークで切り抜ければ
ぼくらの生命の掛け橋は音を上げることはない
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