部   屋

堀場康一


一幕の というより半幕の芝居がおわって
コンクリートのカーテンがおりる

するとがらがら音がして
となりの窓から

窓という窓から
どこかで見たような

頭をぶつけたことのあるような
四角い部屋が顔を出す

足跡はといえば床いちめんに落ちていて
でこぼこしたぶかっこうなやつばかり

泣いているみたいな
おこってるみたいな

赤ん坊のものほしげな悲鳴が
背中のあたりにこだまする

それはあの朝もやの細い路地で聞いた
一日のはじまる合図だったかもしれない

テープを巻き戻して椅子にかけ
きのうのレッスンをくり返すには

かりかりひびきわたるお菓子と
熱い緑茶があれば十分だけれど

なまけものの魂がはたして
こころよく腰を上げるかしら

ふとんにもぐるのはまだ早いし
大声を張り上げるのはちょっと無理

空気をひっかいていらいらして
できればうぶ湯につかりたい気分



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996