見えない日

堀場康一



 坂道

はりつめた心がほどけもつれ
足音のかなたへひきずられてゆく
おおいかかる雲ととどかない翼
そんなとき見えない扉をさぐりあてるのは
さびついた信念を一ひねりするよりも
やっかいなものだ


 路上

無から有を生みだすことは
できるかもしれない
できないかもしれない
いつのころだったか
ソフトクリームを舐めたような想念が
涸れたアスファルトをかけめぐっていたのは


 日向

はしゃぎ声がするのは
あちらの公園かな
こちらの露地かな
泣き声もきこえてくる
どうかしたかな
お日さまはまだ高いよ


 往来

そのひとはこちらを
ふりかえらない
夕暮のむこうで
ふりむいたと思ったのは
しろい町の息吹が
瞼にしみたからでしょうか


 日没

宵の口駅に降り立つと待っているのは
店じまいの支度する表通り 自動車のあかり
かぜが吹いても吹いてなくても
近所の気どらない食堂でありつくものは
献立あれこれ日替り定食 豚カツのにおい
かぜを引いても引いてなくても


 気持

ここまで辿りついて
運がよかったと感じるのは
気のおけない思いすごし?
ひそやかな夜をとおり抜けても
こころが蜜柑色にとろけているのは
夜明けを迎えるのがちょっと気がかり?



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996