トマトジュースのぶるうす
堀場康一
人生とはちょうどこれくらいのものですと
たかをくくっていたのが
そもそもまちがいのもと
何とかなりそうなことばかりなのに
何をやっても思いどおりにいかず
へまをしてばかり
金があればどんどん使い
いい気分になって優越感にひたっている
金がなくてもパチンコ屋へ出かけてはすり
そしてまたこりずに挑戦する
本をたくさん買い込んでは
中身を全然読まずにほったらかして
たまに読む気になっても
こんなの読んでどうなるのだという
大義名分的疑惑にとりつかれ
中途で投げ出してしまう始末
野暮になろうと心をくだいても
野暮にはなりきれず
清廉・潔癖を人に自慢できるような柄でなし
そうかといってこのままでは
僕はもう駄目だ破滅しそうだ見通し暗いなと
憂鬱そうにふさぎ込んでいるわけでもない
仲間に出会えば
冗談をポンポン飛ばしてひそかに大喜びし
疲れる疲れるといいながらまた冗談を言う
三面記事的大事件が起これば
たちまち心奪われて
野次馬のごとく大騒ぎ
今はやりの歌謡曲をなんとなく口ずさみ
ジャズのアドリブにからだ震わせる
町なかを歩くときは何かが起こりそうだと
期待に心ふくらませ
人々のよそいきの顔を
ひそかに観察しては喜んでいる
些細なくだらないことにも心ときめかせ
人目をはばかることなくおもしろがる
ときには悲しいこともあり
底なしの悲しみにひたりきる
ひとつ悲しければ何もかも悲しくなって
自分でもあっ気にとられるほどの
深刻なる悲しみよう
けれど人に悲しみを打ち明ける気になれず
人前では恰好つけて威勢よくしゃべりまくる
なんだいこりゃ一体
わけのわからない有耶無耶で支離滅裂な
当たり前のことばかり
かく言うこの僕もあほらしくなるばかりの
お人好しのおっちょこちょいの
とんちき野郎じゃないか
どうってことないね この世の中は
人生はやっぱりこれくらいのものなんです
これくらいだから
それくらいにもあれくらいにもなるんです
僕は軽い笑みを浮べ
ちょっぴり冷えたトマトジュースを啜りながら……
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