子供たちのいる風景

堀場康一


人生は単純なものだ
生きながら 愛しながら
愛しながら 生きながら

雨があがり
日が照り
風が吹き
木の葉がゆれるように

花が咲き
雲がただよい
鳥がさえずり
猫がじゃれるように

石がころがり
自動車が走り
電柱がならび
アスファルトが横たわるように

空をあおぎ
ショーウインドーをのぞき
道路をよこぎり
電車にのるように

山道を歩き
お寺の境内にたたずみ
ため息をつき
ぼんやりと見まわすように

紙ヒコーキをとばし
自転車にのり
歌を口ずさみ
夕日をながめるように

野菜やくだものをかい
料理をつくり
はしでつかみ
頬ばるように

はたらき
あそびまわり
風呂にはいり
からだを流すように

窓をあけ
都会のにおいをかぎ
音楽をきき
ノートをひらくように

ほほえみ
かなしみ
いのり
物想いにふけるように

人生は単純なものだ
生きながら 愛しながら
愛しながら 生きながら

突然砕け散るぼくのリズム
太陽がかくれ 雨が降り出す
ぼくの確信はゆらぎ 下水のうえをゆらゆら流れていく
ぼくのまわりの時間がとだえ
白い壁がぽっかり口をあける
マンホールに吸い込まれそうなぼくの胸

ぼくは呼ぶ おまえの名を
ぼくは叫ぶ おまえの名を

送電線が故障し 電車が止まり
電話線が切れ 電灯が消え
ラジオのアナウンサーの声がぷつんととぎれ
テレビのブラウン管を歩きまわる人間たちが
幽霊のように姿を消す
アスファルト色の物憂げな欲望うずまく町のなかを
なまあたたかい南風があわただしく駆けぬける
最後のランプが消え
最後のろうそくが消え
最後のあかりが消える
ぼくのからだはひからびた洞穴にころげ落ちてゆく
――ぼくはまぶたを閉じる

ほらほら 窓際にぼんやりたたずんでいる子供たちよ
先生たちには気むずかしい顔をさせておきなさい
政治家たちには公約と実行を叫ばせておきなさい
裁判官や弁護士たちには法律の解釈と弁護をさせて
 おきなさい
うらない師たちには未来のできごとを予言させて
 おきなさい
大人たちには道徳や教訓を説かせておきなさい
親たちは好きなようにおこらせておきなさい
そして 本は棚の上においたまま
ノートはとじたまま
テレビはつけたまま
窓はあけたまま
日のあたる外へ飛びだして
ぼくといっしょに遊ぼうといこうじゃないか
回転木馬がくるくるまわり
なわとびと棒きれと風船と
かけまわりころげまわるはらっぱがあれば
町は子供たちの天国だ
町はぼくたちの天国だ

「あなた どこにいるの なにをしてるの
いったいなにをかんがえているの」

一羽のにわとりがはてしない空めがけて
たからかに時を告げる朝
ぼくは目をさまし からだを起こす
そしてもう一度 人生をはじめる



 詩集『ボストンバッグ』目次

 Copyright (c) Koichi Horiba, 1996