はじまり
堀場康一
はじまりはいつもよそよそしさが支配する
互いにちがう方向を向き
寄り添うのでもなく
離れるのでもなく
もじもじする男と女の視線
そのままうやむやに終わることもあれば
目を合わせ雑談が始まることもある
どんなプロセスを辿るにせよ
偶然か必然かはたいした問題でない
両手を膝の上に置いておだやかに語りかけるやさしさと
こころとことばのキャッチボールする気持ちがあれば
いつか二人は手をつなぎ歩き出すかもしれない
そこはもはや第三者が口を挟む領分でなく
あたたかく見守るのが筋というものだ
はじまりはいつも心がおどる
当事者であろうと傍観者であろうと
長い上り坂を一気に駆け上がり
昇り来る朝日に挨拶してみたくなる
おはよう 元気かい
きょうも一日よろしく
いつものことだから目に見える進展はないが
大切に日々を送りたいと思う
はじまりはいつも目の前にたゆたう
そのチャンスを両手で受け止め
小さな種子を育て上げることがぼくらの宿題だ
はじまりを持続させるには根気と忍耐が必要だが
身についているかどうかおぼつかない
ぼやぼやしていると無響室に連れて行かれ
おのれの性格が一つ一つ試される
そして無響室から解き放たれ
もう一度はじまりと対面したとき
心に響くものがなければ
あたりは静まり返ったままだが
心に響くものがあれば
やおら身を乗り出して
にぎやかに楽器を打ち鳴らそう
はじまりはいつも悩ましい
ぼくはきのうの夢に惑わされないように
白い呼気をかき消しながら朝の河岸通りを走る
それがスローな自分の終わりのない跳躍
ゴールは遠くかすんで見えるが
ぼくはマイペースで走りつづける
その向こうにある平凡な人生を
この手でしっかりつかみたいから |
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