二十代のころ
堀場康一
二十代のころぼくは
たくさん夢を見ていた
未知におののきつつも
いつも未来を追い求めた
二十代のころぼくは
東京の町々をこまめに歩いた
人生に深入りしかけたこともあったが
ほんとうのいたみを知らずに通り過ぎた
二十代のころぼくは
未熟だった
無知をひけらかすことはなかったが
無知をはずかしいと思わなかった
二十代のころぼくは
批判されることがあまりなかった
そのせいか自分に甘えて
利己的にふるまっていたような気がする
二十代のころぼくは
親の心子知らず
父母の気持ちを推し量ることなど思いも寄らず
親孝行しようという気は起こらなかった
あれから数十年 五十九歳の春がきた
いまのぼくは二十代のころとどれほど違いがあるか
父はすでに亡く いまも母を煩わせているが
多少は成長したと思いたい
二十代のころの自分といまの自分と
変わらないところもあれば変わったところもある
体力で及ばないかもしれないが
気力で負けてはいない
二十代のころは何をやるにも夢中だったが
いまはいくぶん心に余裕ができた
ぼくの後ろに道ができたように
ぼくの前に新たな道を築いていこう
二十代のころぼくは
生きることは愛することだと思っていた
いまもぼくは
生きることは愛することだと思っている
二十代のころぼくは
たくさん夢を見ていた
いまもぼくは
たくさん夢を見て生きている |
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