シマウマの夢
堀場康一
気象台もあきれるほど残暑のつづく九月の土曜日
本山の古書店 シマウマ書房に友と出かけた
シマウマ書房にシマウマはいなかったが
Y先生を慕う人々がいずこからともなく集い
地上から日の差し込む半地下の
あまたの古書本棚に囲まれた一室で
シマウマのように首を長くして
Y先生の文学トークに聞き入った
いまは亡き詩人T氏への共感と愛惜に満ちたお話は
フルコースのように味わい深いものだった
黒と緑と灰色の横縞のTシャツを着たぼくは
はじめて聞く話ばかりだったが
いつしかシマウマ気分にひたり
シマウマの鳴き方はどんなだろうとか
シマウマの好物や趣味はなんだろうとか
シマウマの出身はどこだろうとか
トリビアな質問が脳裡を行き来した
ぼくは動物園でしかシマウマを見たことがないが
シマウマはいったいどこに住んでいるのだろう
ぼくら人間も動物の仲間だから
案外身近なところにシマウマはひそんでいるかもしれない
こんど町角でシマウマに出合ったら
シマウマの鳴き声や好物や趣味や出身地や
いろんなことをたずねてみよう
シマウマくん そのときはよろしく
そんな夢想にあけくれるうちに
Y先生のトークショーはエピローグを迎えたが
ぼくの心はちぐはぐなままだった
このつぎY先生にお目にかかることがあれば
シマウマに気を取られぬよう用心しなくてはなりませぬ
シマウマくん そのときはまたよろしく |