バーチャルシティー名古屋
堀場康一
路上を飛び交う携帯電話のおしゃべりと
頭上で電波をコントロールする人工衛星
景色がめぐり記憶がめぐり
ぼくのからだははらはらと揺れながら
名古屋の空気を吸い込んでいる
道ゆく人々は仮想現実を身にまとい
大須万松寺通のアーケードをくぐり抜けると
パソコンショップにしげしげと入り込み
マウスをクリックしてパントマイムを演じはじめる
そびえたつ若宮大通北ナディアパークの屋上クレーンに
工事現場の鉄の絨毯がひらひらと舞い上がり
天空をさすらうインターネット・スタジアムでは
マイクロソフトとネットスケープが今日も熱い議論をたたかわす
ぼくらは本気で取っ組合いをして
泥塗れになった試しがあるか
雑踏のなかでふと不思議の国に迷い込むことがある
たとえば栄交差点三越北のあかぬけた輸入車ショウルームから
人魚の品評会の口上がいかめしく響きわたり
あとを追いかけるように彼女たちの忍び泣きが
観客の薄ら笑いにまじって洩れてくるとしたら
子供たちの笑顔も心地よい慰めとならないだろう
セルビア人とクロアチア人を両親にもつイスラム教徒の子供は
一体どうやってボスニア・ヘルツェゴビナに住めるのか
定時の天気予報は大雨や地震や水不足の予想はするが
世界が安堵する日の風向きを告げることはない
それが当たり障りのないやり方かもしれないが
なんと気がかりで
遠いひとを思うときのように
なんともどかしく
そのうえぼくらには億千万の生誕と死が
自動扉の向こうでさりげなく順番を待っている
どっこいぼくは平成のトラブルバスター見習いだ
よろず相談なんでもござれ
メガフロートでも人生相談でも何でも引き受けちゃうよ
ところで採算は取れそうかい
ぼくはあわてて算盤を弾く
ソフトバンクが世界市場を相手に他流試合を挑む
ネットワーク格闘技を脳裡に描いて
ぼくの心は芸術文化センターの吹き抜けロビーを浮遊する
錦通で消防車のサイレンがうなり
自動車の海に放り出される
セントラルパークでロックコンサートがつづく
寝不足に注意したまえ
明日があるから
世界がふいに消えてしまわないように毎晩
ありったけのまじないを唱えたことはありませんか
テレビ塔の展望台で地球がからからと笑っている
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